同一労働同一賃金がやってきます
年末の賞与は会社員の楽しみ
会社員にとって年末の大きな楽しみの一つに賞与があるのではないでしょうか。中小企業や個人事業でもこの12月に賞与・期末手当を支給した会社は多かったのではないかと思います。
先ごろおつきあいのある事業主(個人事業です)から従業員に賞与を支給したいとの相談を受けました。
その会社では雇用形態が常勤の正社員2名と非常勤(週3日)の契約職員が1名いて、業務内容はほぼ同じです。
賞与の額と対象者を確認したときに正社員だけに賞与があり契約社員には賞与の支給がないことが気になり、契約社員であっても業務内容・勤務日数を考慮して貢献度に見合った賞与・寸志を支給することを提案しました。
賞与にも同一労働同一賃金が
上記提案は2020年4月1日に施行が予定される「同一労働同一賃金」を踏まえてのことです。
同一労働同一賃金は2020年4月1日施行予定(中小企業は2021年4月1日施行予定)の「パートタイム・有期雇用労働法」によるものですが、法の施行に先立って2019年2月15日に大阪医科大の研究室の秘書業務職員への賞与をめぐる裁判で、他の秘書職員に支給された賞与が同業務のアルバイト職員には支給されなかったことは違法である、との高等裁判所判決が出ており、「アルバイトだから」「賞与だから(雇用契約では賞与なしとされていたようです)」という理由での待遇格差は不合理であるとの判断の先鞭がつけられており、2020年4月の法施行に向けて非正規格差問題の考え方が一気に収束していくものと思われます。
厚生労働省の、同一労働同一賃金のリーフレットへのリンクです。
待遇差には理由をしっかりと
ではアルバイトでも正社員とまったく同じ待遇にしなければならないのか、というとそういう話ではなく、上記の大阪医科大学の裁判では賞与の支給理由・計算方法などが判決理由の一つに挙げられているほかその他の労働賃金裁判でも争点となる賃金の支給趣旨につき個別に細かく検討された結果が判決理由となっており、正社員と正社員以外(契約職員やアルバイトなど)の間での賃金格差は何が何でも「不可」であるというわけではなく、賃金差の根拠として合理的に納得できる理由がないから不可なのであること、言い換えると賃金に差をつける場合にはその理由をしっかりと持たなければならない、ということがわかります。
待遇の理由を説明することについては「パートタイム・有期雇用労働法」でもポイントの一つとして挙げられており、いままで「なんとなく」賃金を決めていた事業主は対応を迫られることになりそうです。
実際には同一労働同一「待遇」
大阪医科大学の判決では「アルバイト」「賞与」というわかりやすいキーワードがあったためかその部分だけピックアップされているようですが、同じ裁判の中で「夏季特別有給休暇(正職員には法定の有給休暇に加えて5日間付与されていたとのことです)」や「私傷病休職中の賃金支給」についてもアルバイトにまったく与えられないのは不合理である、との判決内容が含まれていました。
休暇・休職についてはそれぞれ明示する労働条件の一つとなっていることから、これから本格的に導入される「同一労働同一賃金」でも、賃金だけではなく労働条件全般についての待遇差解消、もしくは待遇差がある場合にはその理由の明確化と説明が求められていくものと思われます。
同一労働同一賃金の求めるものは
同一労働同一賃金の内容は一見すると有期雇用の人件費アップにつながるため中小企業や個人事業主には大変厳しい内容になっていると思います。
ですが賃金関係裁判の判決の見出しだけ見ているとわかりづらいのですが、判決内容を細かく読むと、同じ裁判内でも複数の争点があり、争点となる待遇の趣旨と実際の支給状況や働き方を比べて不合理な差は認められない、として訴えが棄却されていることも結構あるのです。そうなると、これから事業主に求められるのは「同一労働同一賃金」の言葉の響きから連想される一律の待遇などではなく、「納得できる理由を伴って待遇を決定する」ということなのでしょう。
そんなことを思いながら今回の記事を書くためにいろいろな資料を見ているうちに、同一労働同一賃金の目指すところは単純に有期雇用の人件費アップなどではなく、「労使お互いに納得のうえでの労働力提供」ではないかと思うようになりました。