社会保険の電子申請は革命的に便利

社会保険の電子申請は革命的に便利

 社会保険・雇用保険の届出のほとんどは電子政府の総合窓口「e-Gov」からインターネット申請(電子申請)をしています。
 社労士の「1号業務」として労働社会保険の申請書、届出書その他の書類の作成、提出等の業務が社労士業務の柱となっているように、実務面において電子申請の利用頻度は高く、とても恩恵を感じています。

電子申請の現在の状況

 大変便利に利用している電子申請ですが、電子申請の窓口「e-Gov」の中の「e-Govの沿革」を見ると、一番最初のシステム運用は1998年に始まり、電子申請システムの運用が開始されたのは2006年になっています。電子申請についていえば運用開始から10年超となり、そろそろシステム運用についてこなれてきた、といった段階でしょうか。

 私がはじめてe-Govを使用して社会保険・雇用保険の電子申請を行ったのは2010年頃で、その頃でも電子申請はほとんど現在の形と同じだったと思います。
 ですが、当時はまだ社会保険の電子申請が今ひとつ浸透していなかったようで、政府も大々的にe-Govでの電子申請の説明会を行っていたような記憶があります。

 当時と比べて最近は色々な場面でインターネットで公的な手続きを行うことが一般的になってきましたが、厚生労働省の2017年の報告資料「社会保険関係の申請の現状について」を見ると、e-Gov(オンライン申請)の利用率は10%強程度、CD-R等の電子媒体を活用した媒体申請を含めた利用率はまた全体の50%程度だそうです。
 電子申請の利用率が10%強程度とあまりの少なさに驚きましたが、それよりもCD-Rなどの電子媒体の利用率が40%程度もあることが意外でした。

電子申請と電子媒体申請

 CD-Rなどの電子媒体を利用した申請が多いのは、日本年金機構が提供する「届書作成プログラム」を使えば大量の届出でもPC上で比較的かんたんに作成できるので、それを利用する企業が多いのでしょう。

 また、従業員のデータが入った電子媒体(CD-R等)が年金事務所から送付されてくるので、本来は紙媒体で届出したい企業もやむなく送付されてきた電子媒体(CD-R等)を使って申請している、とい う事情も想像できます。

 電子媒体(CD-R等)で届出を作成している企業の割合が40%もあるのにそれがオンライン申請に移行しないのは、オンラインで申請するのとPCで作成した電子届出書を電子媒体(CD-R等)を郵送するのとでは「時間」も「労力」も大差ないから、と企業担当者が考えるからかもしれません。

 厚生労働省の資料では、電子申請が浸透しない理由として紙媒体でも作成の手間が少ないこと、事業所の多くが小規模事業所で社保等を届け出する経営者が高齢のため電子申請よりも紙媒体を利用することが多い、と分析しています。

 私もはじめて電子申請を導入したときは試行錯誤の連続で大変苦労し、「いままで通り用紙に記入押印したほうが早いのではないか」とヘコたれたおぼえがあるので、厚生労働省の分析は単純ながらも外してないのだろうな、と感じます。特に小規模企業で社保の申請がそれほど頻繁にはないのなら、「電子申請導入で苦労するより、外出の手間はあるけれどいつもどおり紙媒体で申請しよう」と考えるのはある意味合理的なのかもしれません。

電子申請の導入にあたり困ったことなど

私が電子申請の導入段階での疑問や悩みなど。

  • 電子申請をするためになにが必要なのかがまずわからない。
  • 「電子証明書」をどのように入手するのかがわからない。また、電子証明書購入の必要書類として事業主の個人情報書類の提出が必要など、いろいろと手間がかかって大変。
  • 電子証明書は代表者印と同じ効力があるので、作業を行うPCがコンピュータウィルスに感染したらという不安と、そのようなリスクを負うのならいままでどおり紙媒体での届出申請でよいのでは、との迷い

さらに、今は改善されているとは思うのですが、当時は電子申請に関する問い合わせ窓口がわからず、ようやく判明した問い合わせ電話番号に問い合わせたところどんどんたらい回しにされて、かけ直しに次ぐかけ直しで一つの疑問の解消に数時間かかったりしました。

 なんとかe-Govで電子申請ができるようになってからも運用面で疑問や不安は次々と出てきました。

  • e-Govで社保手続きを検索すると似た名称の手続きが何件もヒットしてどこから申請してよいのかわからない。
  • 届出内容の入力の後の進め方がわからない。特に「預かり票」の使い方がわからない。
  • 電子申請をする中で、保存を求められるファイルが多すぎてどう取り扱ってよいのかわからない。
  • 紙媒体の場合、届出のコピーに受付印をもらうことで届出た証憑として記録を残しておけるが、電子申請の場合どのように整理していけばよいかわからない

 ご自身で電子申請をされている方なら、思い当たることがあるのではないでしょうか?慣れてしまえばなんのことはないのですが、それぞれどのように取り扱えばよいのか曖昧なうちは苦労しました。

それでも電子申請は「革命的」に便利

 今もわかりづらいと感じたり、システムが使いづらいと感じるところがありますが、それでも特に社労士にとっては、電子申請を行うメリットは「革命的」と言えるほど大きいのは間違いありません。

 遠方の年金事務所やハローワークにいちいち出向かなくてよいというのが一番のメリットですが(遠方のハローワークで、窓口で不受理だったときのショックといったら…)、電子申請の利便性で大きいのが、紙媒体で必要だった署名や添付書類の省略が認められているということだと思います。

 特に定期的に届出が必要な、例えば育児休業給付や高年齢継続給付などは原則として紙媒体では被保険者の署名が都度必要でしたが、電子申請では「被保険者の提出代行確認書」を取得し添付することで都度の署名が不要になります。紙媒体で申請していた頃は署名・押印をもらう手間が悩みのタネであったので、添付の省略が可能であるのは社労士の業務を劇的に省力化してくれたと思います。

 「セルズ台帳」や「社労夢 簡単e-Gov連携電子申請」といった市販の社保申請ソフトを使えば電子申請はさらに一段と便利に使いやすくなりますが、「e-Gov」だけでも別途エクセルなどで申請の進捗管理をしておけば時間と労力の省力化という電子申請の恩恵は十分に受けられます。

社労士の1号業務のこれからは

こんなに便利な電子申請なのですが、社労士としてはただ単に「便利だ」で済ますことはできません。

 厚生労働省が分析する「電子申請が浸透しない理由」として事業主が高齢でITを使いこなせないことが挙げられているわけですが、これから年月を経るほどにITに精通した若い事業主が増えていくわけで、社労士としては「社会保険の電子申請ができる」ことを自身のセールスポイントにすることは到底できなくなります。

 「2020年4月から一部の法人に電子申請を義務付け」との発表があったとおり、これから社会保険等の電子申請は当然のものになります。

 時間と労力の省力化により広範囲・大量に処理できるようになった大変便利な電子申請を、自身のビジネスにうまく組み込んでいくことが社労士の今後の課題になるのは間違いありません。