厚労省サイト「スタートアップ労働条件」がちょっと便利

厚労省サイト「スタートアップ労働条件」がちょっと便利

サイト「スタートアップ労働条件」を知っていますか?

行政では労働に関するサイトをいろいろと準備していますが、その中のひとつ厚生労働省の「スタートアップ労働条件」というサイトをご存知でしょうか?
これがなかなか興味深くてなかなか便利なサイトなので、ご紹介したいと思います。 

「スタートアップ労働条件」へはこちらから(別タブで開きます)

2016年の開設以来少しずつバージョンアップを重ねて内容も充実し、2019年9月現在のサイト内には以下の3種類のメニューが用意されています。

1.WEB診断(労働条件診断)
2.36協定届・1年単位変形労働時間制書面作成ツール
3.就業規則作成支援ツール(賃金規定作成支援ツール)

このサイトは基本的にはユーザー登録をするようになっており、 ユーザー登録をしておかないとサイト内で作成する就業規則や各種届出書等の途中内容が保存できません。

ユーザー登録をしなくてもゲストとして利用可能ですが、実際にこのサイトを使って就業規則等を作成しようとすると作成にそれなりの、というよりかなりの時間がかかりますので、途中保存しないで実用的なものを作成するのは現実的ではありません。 お試しの場合以外にはユーザー登録をして利用するのがよいと思います。

WEB診断(労働条件診断)

「WEB診断」では自社の労働条件が労基法等の法令を遵守できているかを確認することができます。
 こんにち労基法は働き方改革で大きく改正されていますので、就業規則等労働条件を見直しを迫られる会社も多いと思います。こちらのWEB診断は自社の労働条件が法令基準を満たしているか確認するのに使えるのではないかと思います。
 画面に次々と表示される労働条件に関する質問事項に択一式で回答していきます。

 回答し終えると、回答に即して改善点等の結果を下の図のようにレーダーチャートで表示してくれます。

 ただ、回答形式が択一式なのでどんどん回答していけるのですが、質問事項が多い!
基本的な内容と思われる「一般の設問のみ」でも42問あって、1問につき回答に1分かかるとしても全部回答し終えるのに42分!かかることになります。

就業規則見直しのニーズは常にあるので、このように自社の就業条件を確認できるツールがあるとDIYな事業主さまにはかなりお役立ちなのではないでしょうか。
レーダーチャートに続いて表示される診断結果は下の図のようにかなり具体的なので、法規制等の関連知識をしっかりと得られると思います。

36協定書作成ツール

従業員が残業をする場合に届出することが必須である「36協定届出書」をサイト内で作成することができます。
このサイトが便利なのは、36協定届の内容入力画面で「入力上の注意」ボタンを押すと、関連情報を表示してくれることです。

36協定届に限らず届出書を作成するときには必ず資料にあたって確認していますが、このように関連情報を表示してくれると助かります。

このサイトで36協定届書を作成すると、下の図のようにPDFで出力されます。
36協定届書を作成するのに、これまでは労働局ホームページに掲示されているWord形式の36協定届出書雛形を使用していましたが、Word形式だと改行などの関係でページのレイアウトが崩れてしまうことがありその調整が面倒だったので、このサイトのように一発でピシッと1ページに収めて表示してくれると、使ってみようかな、という気持ちになります。

近年は働き方改革の柱の一つでもある時間外労働規制に関する労基署の取り締まりも強くなってきていますので、こちらのサイトを利用して届出書を作成するとよいのではと思います。
 e-govでは電子申請用の36協定届をWEB上で作成できるようになっていますが、同じWEB条で36協定を作成するにしてもこちらのサイトのほうが断然使いやすいと思います。

1年単位の変形労働時間制に関する書面ツール

変形労働時間制には1週間単位の変形労働時間制( 小売業等接客を伴う30人未満の限定された事業場についてのみ )・1ヶ月単位の変形労働時間制・1年単位の変形労働時間制とありますが、このサイトでは行政に書類の提出が必要になる、1年単位の変形労働時間制に関する下記の文書3種を作成することができます。

 1)1年単位の変形労働時間制の労働時間確認用カレンダー
 2)1年単位の変形労働時間制の労使協定書
 3)1年単位の変形労働時間制の協定届

1)労働時間確認用の年間カレンダー

1年単位の変形労働時間制では会社カレンダーで各月・各週の労働時間を確認する必要があってそれがなかなか骨が折れる作業の一つなのですが、このサイトではサイト上で会社カレンダーを作成することができ、カレンダーで稼働日を設定するとリアルタイムで各週・各月の労働時間数合計を確認することができて便利です。

カレンダーの作成機能は便利で役立ちそうなのですが、ひとつ気になるのが、上の図を見ていただくとわかるとおりカレンダー各月始まりの曜日が必ずしも日曜や月曜ではなく、作成するカレンダーの初日の曜日に合わされてしまうようなのです(上の図だとカレンダーが火曜日始まりになっています)。通常のカレンダーと少し違うので要注意ですね。
カレンダーには何パターンかの印をつけることが可能です。夏休みなどの連休や会社設立記念休日など特別な日に印をつけることができて使い勝手がよさそうです。

1年単位の変形労働時間制では必ず作成する各月の労働時間も上の図のとおり自動集計されます。
ここで注意が必要なのが、集計表の右隣にチェック項目1~5が表示されていますがこちらは自動チェックはされないことです。この5つの項目については自分でそれぞれの項目をチェックする必要があるようです。

設定したカレンダーはPDFで上の図のように出力することができます。

2)労使協定書

1年単位の変形労働時間制の適用に必要な労使協定書も作成することができます。
1年単位の変形労働時間制の労使協定で定める事項は決められていますので、こちらのツールのように必要事項を入力するだけで
 一つ注意が必要なのが、労使協定書に限っては出力形式がPDFではなくWord形式なことです。

3)協定届書

協定届ももちろん作成できます。このツールが便利なところは、カレンダーで設定した内容がこの協定届に自動で反映されるところです。
 これまでは協定届に記入する「最長連続週数」「連続労働日数」などは1…2…などとカレンダーを目視で数えていたのは自分だけではないはずです。
作成した協定届書はPDFで出力することができます。

就業規則作成ツール

このサイトでも大きな柱となっている就業規則作成ツールです。
厚生労働省のホームページに掲示されているモデル就業規則を基本に、利用者がカスタマイズできるようになっています。
デフォルトの内容は第14章・第68条までとフルボリュームです。
「章」を単位として選択し、編集していくようになっています。

最初に上の図のように目次の形式で全体が表示されます。
編集したい章もしくは条番号をクリックすると内容の確認・編集が可能です。

 章・もしくは条を選択すると上の図のように当該部分の詳細が表示され、条のタイトル・内容をテキストで自由に編集することができます。
 各条の労基法上の規制等の注意事項が「作成上の注意」ボタンから確認できるので大変便利ではあるのですが、その分量も相当なものなので一つ一つ理解しながらだとかなり時間がかかるのではないかと思います。

 就業規則は分量も多く内容も自社に合わせて細かく内容の修正・加除をしなければならないので、冒頭に書いたように途中保存をしながら時間をかけて作成していくべきものなのですが、就業規則のカスタマイズを途中保存する場合には下の図のように、編集中の章のすべての条の注意内容の「確認」にチェックをしなければならず、それが面倒に感じると思います。

 このツールの便利なところは、条文の加除や順番の入れ替えをしたときにその条文の以降の条番号が自動で修正されるところです。就業規則を作成するときにはゼロから作成するわけではなく厚生労働省のモデル就業規則や日本法令等の市販のテキストの就業規則雛形を利用して作成していきますが、Word形式のファイルを編集するときに章の番号や条番号を手作業で修正する必要があるものがあり、それが非常に骨が折れる作業になったりしています(Word形式のファイルであればWordには条番号等を自動で振り直す機能がついているのでそれを活用すればよいのでしょうが…)。

 本ツールではありませんが、条番号については厚生労働省のモデル就業規則のWord形式ファイルが面白い作りになっています。条文がすべてボックス内に記載されており(条文の注釈はボックス外に記載)、条文のボックスを削除したりボックスを前後にドラッグして移動させるとそれ以降の条文の条番号が自動で振り直され、手作業で条番号を振り直さなくてよいようになっています
(余談となりますが厚生労働省のモデル就業規則のページには英語・中国語・ポルトガル語・ベトナム語の就業規則も掲示されています)。

 就業規則のカスタマイズで注意が必要なのは、就業規則の条文の中で入力が必要な箇所であっても特にマーカー等の印があるわけではなく該当箇所が空白になっているだけなことです。各条文の内容を読み込んで必要な箇所にはしっかり入力しておかないと、いざ印刷してみたときにアレ?ということになるかもしれません。
また、条文の内容はテキストになっているだけで他と自動でリンクしているわけではないので、例えば条文中に「本規則第○条を参照」のように条文中に別条文を参照するようになっている箇所は自動では修正されないので手作業で修正する必要があります。

 作成した就業規則はいつでもPDFで出力することができます。Word形式の就業規則の場合には中途半端な場所にページの区切りが来ていないか印刷する前に全体を見直す必要がありましたが(うっかり印刷してしまうと、分量が多いだけに面倒なことに…)、本ツールはPDFで出力したときにページの区切りを自動的に調整してくれるので便利です。

 就業規則は一度作成して終了ではなく組織の実状に合わせて改訂していくべきものなので、こちらのツールを利用して就業規則を作るのであればユーザー登録をして長期に利用していくことになると思います。
 無料サービスの心配なことの一つに突然サポートがなくなったり終了してしまうことがあります。このツールで作成する就業規則などは、改訂のことまで考えると間をおきながら長期間利用することになるので、本サイトがなくならないように厚生労働省にはしっかり管理していただきたいです。

「スタートアップ労働条件」サイトは、十分使えそう

今はまだサイトを見つけたばかりで実践に踏み込んだ確認には至っていないのですが、サイトの作りが丁寧なこともあって全体的に好印象です。

「スタートアップ労働条件」のサイトは当然一般事業主を対象としたものですが、用意されているツールは社労士であっても十分便利に使えるので、知っておくとちょっとお得なのではないかと思います。

各所で提供されている就業規則や各種の届出の電子ファイルの雛形は今のところほとんどがWord形式・Excel形式・PDF形式ですが、自由に記入できることが仇になって、記入を間違えてしまうことが意外とありました(例えば、書類のAの部分とBの部分は同一の日付にしなければならない、だとか)。こちらのツールのようにある程度入力できる内容を制限してあったほうが、作成にあたっての労力も省けるしミスも少なくなるのではないかとの期待があります。

次に就業規則や36協定の作成をするときにはぜひ「スタートアップ労働条件」のツールを試してみようと思います。